本を枕にうたた寝

スローペースな本読み。本がたくさんある場所に行くと、心が躍ります(´∀`) そんないち本好きが送る汗と涙の読書記録です。

小さな冒険者ーアヴィ著「はじまりのはじまりのはじまりのおわり」

はじまりのはじまりのはじまりのおわり 小さいカタツムリともっと小さいアリの冒険 (福音館文庫 物語)

 

昨夜の激しい雨は止み、路面はその形跡を保っていた。
湿り気を帯びたアスファルトを水溜りに注意しながら歩き、住宅街を抜けようとしたその時。
私の前をのそのそと動く物体が通り過ぎようとしている。
目を凝らして見ると渦巻きの殻を背負った小さな小さなかたつむりであった。
住宅街とは言えどもすぐ側には工場があり、頻繁に大きなトラックが往来している。
また自転車やバイクもごくたまに通り、乗用車二台すれ違うのがやっとなくらいの道幅。
おまけに神社も近くカラスも飛来しており、私も以前追いかけられたことがあった。
このままではこの小さなかたつむりは車輪の下敷きになるか、カラスの餌食になりかねない。
私は小さな命を絶やすまいと、安全なところへ避難させることにした。
周りを見渡すと一軒家の生け垣と、工場に併設してある雑木林が目にとまる。
悩みに悩み、結局伸び伸びと出来るであろうと雑木林にそっと離してやった。
再び歩き出したところで、ふと思いとどまる。
あのかたつむりは一軒家に向かって這っていた。
ということは私はただ単にスタート地点に戻してしまっただけではないだろうか。
これから冒険に出かける予定ではなかったのではないだろうか。
私の脳裏には以前読んだアヴィ作「はじまりのはじまりのはじまりのおわり」(福音館書店)が浮かんだ。
この作品は第四回ツイッター文学賞国内部門で一位に輝いた「スタッキング可能」の著者松田青子さんが翻訳した児童文学作品である。

エイヴォンは読書が大好きなカタツムリ。
ある日、自分も物語りのような冒険がしたい! と思い立ち家を飛び出す。
まず最初に出会ったのは気取り屋のアリ、エドワード。
エドワードはエイヴォンに冒険をするには目的をはっきりさせなきゃ、と助言する。
だけどエイヴォンはそんなことはわかりません。一生懸命に考え抜き、冒険を探す旅に出ることにします。
そして、エドワードもエイヴォンと一緒に冒険を探す冒険へと旅立って行く。
途中で迷子になったり、はぐれてしまったり、さまざな虫と出会い交流を深めたりしながら、二匹は大切なことを学んで行く。
そして旅には必ず終わりが待ってます。エイヴォンとエドワードがたどりついた場所とは?
児童書とあってとても優しく書かれていますが、のんびりしたムードのなかに時折どきっとするような言葉にぶち当たります。
忘れかけていたことを思い出させてくれるそんな心温まる作品でした。

その後、私が勝手に救出したかたつむりはもとの場所に戻ったか、気を取り直して冒険に出たかはわからない。
雑木林のなかで家族や友だちに自慢げに冒険談を話して聞かせているだろう。
私はそう願わずにはいられないのである。

* crunchmagazineからの転載です。