本を枕にうたた寝

スローペースな本読み。本がたくさんある場所に行くと、心が躍ります(´∀`) そんないち本好きが送る汗と涙の読書記録です。

すてきな妄想世界――ジュディ・バドニッツ著「空中スキップ」

空中スキップ

 

ある日、ラジオにお気に入りのバンドが出演すると聞き、早めにスイッチを入れて待機していた。
ラジオからはメインであるコーナーが終わり、ニュース、気象情報と流れてくる。
いよいよ、あと10分ほどでお目当てのバンドが登場すると私のテンションも上昇していた。
その矢先、「それでは、次はブックレビューです!」と女性DJの軽妙な調子にいらつきながらも、もう少しの辛抱だと自分に言い聞かせる。
しわがれた声の女性書評家はしずしずと登場し、すぐに本の紹介に入った。
「最初の『犬の日』は、犬の着ぐるみをきた男がペットとして家庭に飼われる話で」
なに?! なんじゃそりゃ?
あまりにもの衝撃的な内容に自分の頭がいかれてしまったのではないかと疑った。
いや疑うのは着ぐるみを着た男を飼っている家族だろーと突っ込みを心の中で入れたら、
私の気持ちを代弁するかのように男性のコメンテーターが、「そんなばかな」と笑いながら言ってのけた。
「いやあ、それがですね。家族は着ぐるみだと思ってないんですよ」
何だと! 世の中にはそんなにおかしな話があるのかい?
疑問だらけの私の頭を通り抜けるように、書評家は次々と奇想展開な内容紹介を笑いながらしていく。
私は今までありきたりなごく普通な話や、この数年は日本が舞台の歴史小説ばかりを読みあさっていた。
過去に海外の作品を何冊か読んだが、今までとは違う世界観に驚きを隠せないでいた。
そして、この書評家は最初から最後まで笑いながら説明していた。
こんなに笑って紹介しているのだから、相当おかしな話に違いないと確信。
翌日にはこの紹介していた本を手に取っていた。
その本とは、ジュディ・バドニッツ著、岸本佐知子訳「空中スキップ」(マガジンハウス)だった。

実際、私の頭では理解しがたい話も多かったが、一歩ディープな世界へ踏み込んでしまったような気がした。
もともと絵画鑑賞も好きで、もっと知りたいと通信教育を受講したことがある。
最も好きな時代はジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティらに代表される19世紀英国で起こったラファエロ前派、二番目ぐらいにサルバドール・ダリジョルジョ・デ・キリコ古賀春江などのシュルレアリスム、次にアンディー・ウォーホール、ロイ・リキテンスタインなどのポップアートと続く。
今まで目で見て脳で考えていた事柄がすべて文章となって広がった瞬間だった。
この本に納められている作品「公園のベンチ」は男女の出会いから別れまでを公園に併設してあるベンチの上で行うというもの。
一般常識からするととてもおかしいことだが、読了後はとても切ない残る作品だった。
また「チア魂」はチアリーディング部の話で、どんな時でも笑顔を絶やさない彼女たちの葛藤が描かれている。
おととし読んだ大好きな作家の一人である朝倉かすみの「少しだけおともだち」という短編集に収められている「C女魂」はこの作品に触発されたのではないかと推測している。
C女子高校がベルマーク集めに没頭する内容だからだ。

とここまで書いたはいいが、正直に申すとノートに感想を書いていない。
強烈な内容しか思い出せなく心苦しい限りだ。
この作品に触れたことにより、また読書熱が再燃しノートをつけ始めたのである。
私の妄想世界を広げてくれた一冊であることには変わりない。

* crunchmagazineからの転載です。