本を枕にうたた寝

スローペースな本読み。本がたくさんある場所に行くと、心が躍ります(´∀`) そんないち本好きが送る汗と涙の読書記録です。

ROCKなSF――ルイス・シャナー著「グリンプス」

好きな小説は三作品ほどある。
映画化されるたびに必ず観に行くシャルロット・ブロンテ著「ジェーン・エア」。
故森光子さんや今度仲間由紀恵さんが主役を演じる林芙美子著「放浪記」。
そして、今回紹介するルイス・シャナー著、小川隆訳の「グリンプス」(筑摩書房)である。

グリンプス (ちくま文庫)


先の二作は女性が主人公で文芸作として有名な作品だが、「グリンプス」は例外でSF。
しかもタイムスリップもので、ロック好きな人にとって心踊る内容となっている。

主人公はステレオ修理工をしている冴えない中年男性レイ。
若かりし日大学の費用を稼ぐためウェートレスをしていた女性をナンパし、結婚に到る。
一見順風満帆に見えるが、子供はなく教師として働いている妻とひずみが生じ始めている。
そんなレイはある日、父親の死をきっかけにレコーディングの風景が浮びあがる。
さらに、タイムスリップをする能力を身につけしまう。
普通なら夫婦の関係を修正しようと奔走し、もう一度向き合ってハッピーエンドを迎えるだろう。
ところが彼はそのようなことはせず、未完のアルバムを製作に力をそそぐ。
登場するミュージシャンは、ビートルズドアーズブライアン・ウィルソンビーチ・ボーイズ)、ジミー・ヘンドリックスと豪華ラインナップ!
もうマニアなら垂涎ものではないだろうか。
そればかりではなく、60年代、70年代の世相やカルチャーもしっかりと描かれている。

じつはわたくし、JK時代にドアーズのジム・モリソンをこよいなく愛していた経歴を持つ。
といってもすでに他界していたので、ライブ映像や音源を見て萌えていた程度。
このドアーズという文字を目にし、この作品を手にしたら、ブライアン・ウィルソンのチャーミングな性格に惚れてしまった。
ビーチ・ボーイズの章では、もちろん『スマイル』を取り上げている。
ロックに詳しい人ならご存知だと思うが、2004年にソロ名義で、2011年にバンド名義で同アルバム・タイトルを発表をしている。
ビーチ・ボーイズが「スマイル」の製作に入ったニュースを聞いたときは、ルイス・シャナーはまるで未来を予見したのではないかと疑ったほどだ。
 
そして、最終章ジミー・ヘンドリックスは、もどかしくてたまないこと。
じつは帰宅時の電車で読んでいたが、地元駅を降りるのを忘れ、2つ先の駅に行ってしまい、寒風吹き荒ぶホームで電車を待った思い出がある。
しかも初読と再読と2回もやってしまったから、苦笑せざる得ない。

肝心のレイは妻との関係が修復できたかについては言及を避けるが、男性女性問わず楽しめる作品となっている。
ちなみにこの作品は、世界幻想文学大賞受賞しており、日本では1997年東京創元社より文庫として刊行された。
その後、絶版状態が続いていたが、なんと今年の1月に筑摩書房から文庫として発売され、訳者小川隆氏の新たなあとがきが収録されている。
ありがとう! 筑摩書房様!
筑摩書房様に感謝をしつつ、筆を置くとしよう。