本を枕にうたた寝

スローペースな本読み。本がたくさんある場所に行くと、心が躍ります(´∀`) そんないち本好きが送る汗と涙の読書記録です。

閑話休題1「ルー・サロメ 愛と生涯」 H.F.ペータース 著, 土岐 恒二 訳

きっかけは深夜に放送されていた映画「ルー・サロメ 善悪の彼岸」に由来します。

「愛の嵐」で有名なリリアーナ・カヴァーニ監督がメガホンを撮り、ドミニク・サンダが主役ルー・サロメを演じています。
新聞のあらすじでニーチェという文字を見たからかもしれないし、先に録画してあったなかにドミニク・サンダの知的な美しさに惚れたからかもしれません。
この作品を録画した経緯は覚えておりませんが、鑑賞後ルー・サロメの生き方の衝撃を受けその生涯を知りたくなりました。
先に白井健三郎著「ルー・サロメニーチェリルケフロイトを生きた女」という評伝を読みました。
冷酷なイメージが強く消化不良となり、かえって本当のところはどうなのかもやもやしておりました。
それから数ヵ月後、今回ご紹介する「ルー・サロメ 愛と生涯」を入手し、その印象ががらりと変わりました。

ルー・サロメ 愛と生涯 (ちくま文庫)

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H.F.ペータースの評伝はルーに対する愛情が注ぎ込まれていて一つ一つのエピソードが素晴らしいのです。
彼女の生き方そのものが、一編の恋愛小説を読んでいるようでとても面白いのです。

ロシアでの初恋(?)の相手はなんと聖職者ヘンドリック・ギロードで、勉強を見てもらううちに親密になっていきます。
ギロードはすっかりルーの虜となりプロポーズをしますが、相思相愛にも関わらず返事は「ノー」でした。
じつはギロードには奥さんも子供もいたのです。
この一件をしったルーの母親は、彼女をスイスに留学をさせます。
故郷を離れた彼女は勉学に勤しみますが、国から許可されている留学期限が近づき連れ戻されそうになります。
彼女の窮地を救ったのはパウル・レーという男性で、彼は哲学者ニーチェを巻き込み、3人で共同生活を始めます。
現在でいうところのルーム・シェアみたいなものでしょうか。
常にルーは新しい男女のあり方「聖三位一体」を模索しており、念願かなって実践できると喜びにひたります。
この時の記念写真が現存しており、荷台に乗ったルーが鞭を手にし、レーがその荷台をひき、恍惚の表情でニーチェが写っております。
しかし、この写真は三人の関係をまるで暗示しておりました。
よりによって男性陣二人は、ルーに恋をしてしまうのです。
当然のことながら、この「聖三位一体」計画は挫折してしまいます。

ニーチェがルーのもとを去り、レーと二人だけの共同生活は続行させます。
二人は兄と妹のような清らかな関係でしたが、穏やかな生活は長くは続きませんでした。
突然、彼女の前に第三の男フリードリヒ・カール・アンドレーアスが現れます。
アンドレーアスはルーとの結婚を強く望み、自分の胸にナイフを突き刺し結婚を強要。
ルーは折れて結婚しますが、彼との間には子を設けておりません。
アンドレーアスにはマリーという愛人をあてがい、自分は外で愛人を作り、旅行したり、仕事に打ち込みます。
この間まで朝ドラとして放送されていた「花子とアン」の蓮様のモデルとなった柳原白蓮を彷彿させます。
ルーの場合は知識欲が旺盛すぎて男性を男性と見ていなかったのではないでしょうか。
私はそんなふうに感じました。
精力的に仕事をこなしてきたルーは体調を崩し、神経科医ピレースとスイスに療養に出掛け、初めて精神と肉体が結びつきます。
この辺は回想録や実存する手紙がないので憶測になりますが、妊娠したようです。
ところが今度はピレースの母は黙っているわけがありません。
ルーに対し息子と別れるよう強く迫ります。
結局ピレースと別れ、記述がないので推測となりますが、お腹の子は堕ろしてしまったようです。

そして、ルー36歳の春に若き詩人ルネ・ライナー・リルケと出会います。
ルーの書いた神の存在に関する論文を読んだリルケは、いたく感動をしたようです。
さらにリルケはルーに愛の告白めいた手紙を送り続けます。
これにはさすがのルーもあっさり陥落し、ルーはリルケにロシア語と文化について教えます。
そして、二人の関係を決定づけるロシア旅行を敢行。
驚くべきことにルーの夫アンドレーアスも同行しますが、途中で帰ってしまいます。
夫が帰ったことにより、ルーは内心ほっとしたのではないでしょうか。
この旅行は二人にとってとても意味のある旅行になりました。
その後、二回目のロシア旅行を敢行しますが、少しずつ溝が広がり始めます。
二人が別れた経緯は、手紙や日記がないのでわかっておりません。

ルーの興味は次なるものへと移っていきます。
いわば心理学、つまりフロイトの思想で、二人の間には恋愛感情はなく純粋な師弟のような関係でした。
というのもフロイトはルーに対して絶大な信頼を寄せており、自分の患者を回していたそうです。
人生を駆け抜けるように過ごしてきた彼女の晩年は、ハイデルベルクの小高い丘に住み、静かに暮らしていたようです。
先にふれたアンドレーアスとマリーの間の子供を認知しており、その子が年老いたルーの身の回りの世話をしていました。
燃え盛るように生きてきたルー・サロメという女性にふれ、自分の生き方を考えさせられました。
余談ではございますが、「ノートン・ライブラリー版への序文」として作家で詩人のアナイス・ニンが寄稿されています。